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福井地方裁判所 平成5年(行ウ)6号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が平成四年三月三日付けで原告に対してした別紙処分目録一記載の公文書非公開決定の非公開部分(ただし、被告が平成五年三月二九日付けで原告に対してした別紙処分目録二記載の公文書一部公開決定により維持した部分に限る。以下「本件処分」という。)を取り消す。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は福井県内に住所を有する者であり、被告は同県公文書公開条例(昭和六十一年三月二十四日福井県条例第二号。以下「本件条例」という。)二条三項の実施機関である。

2  原告は、本件条例六条一項に基づき、平成四年二月二四日、被告に対し、織田町営土地改良事業織田中部地区換地計画書の公開を請求したが(以下「本件公開請求」という。)、被告は、別紙処分目録一記載の公文書非公開決定をし、同年三月三日付け通知書をもって原告に通知した。

3  そこで原告は、右公文書非公開決定につき、同年五月一日、被告に対し、右公文書非公開決定を取り消すとの決定を求める異議申立てをしたが、被告は、同県公文書公開審査会の審査を経て、同目録二記載の公文書一部公開決定をし、平成五年三月二九日付け通知書をもって原告に通知した。

二  争点

本件の争点は、本件処分の適否である。

1  原告の主張

(一) 公的機関の有する情報について、国民の「知る権利」を保障することは、国民主権、民主主義という憲法上の基本原則を実質的に担保するために必要不可欠である。このような「知る権利」は表現の自由に含まれるものである。したがって、情報公開条例は、憲法で保障された「知る権利」を具体化するものであり、憲法上の基本原理である国民主権を十全ならしめ、地方自治行政に対する民主的統制の実効性を担保するものである。本件条例一条が本件条例の目的を「この条例は、地方自治の本旨に即した県政を推進する上において県の保有する情報の公開が重要であることにかんがみ、その一環としての公文書の公開に係る県民の権利の内容を明らかにするとともに、公文書の公開の手続その他必要な事項を定めることにより、県民の県政参加の一層の推進および県政のより公正な運営の確保を図ることを目的とする。」としているのは、以上の趣旨を宣明したものである。

以上からすれば、本件条例に基づく権利は、憲法で保障された「知る権利」が具体化されたものであり、したがって、公開請求された公文書は公開されるのが原則であり、本件条例の適用除外について定める本件条例七条各号の解釈は厳格かつ限定的にされるべきであるし、具体的な公文書が同条各号に該当するか否かの判断についても、いかなる事実が同条各号のいずれに該当するかを十分に検討するという慎重な運用がなされるべきである。

(二) 本件条例七条一号は公開しない公文書として、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、または識別され得るもの。」と規定している。

この要件の解釈については、本件条例三条によって、公文書は原則公開としながらも、個人の秘密、私生活等に関する情報の保護について最大限の配慮を求めているのであり、したがって、行政側の恣意的、濫用的な秘密取扱により情報公開制度の実質的意味が失われないように、そこで保護されるべき利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否か、その利益侵害のおそれが行政機関の主観においてだけでなく、具体的に存在するかを検討する必要がある。

しかしながら、被告のした別紙処分目録一記載の公文書非公開決定においては、すべて個人に関する情報であるとして公開せず、また同目録二記載の公文書一部公開決定によれば、「プライバシーの具体的な内容および保護されるべきプライバシーの範囲については、プライバシーが個人の内心にかかる問題であり、人によってプライバシーについての考え方も異なるところから、一律的な結論を出すことは困難であるので、原則として、個人に関する情報はプライバシーに該当するか否かの判断を行わずに公開しないことを相当とするものである。」としている。これは本件条例三条の公文書は原則公開としている趣旨に反するものであり、本件条例七条一号を誤って解釈するものである。

本件条例三条の「個人の秘密」は厳格かつ適正に解釈し、運用しなければならず、「個人に関する情報」とは、個人に関する情報で未だ一般の人々に知られていない事柄であることが必要である。この点、土地改良法では、二〇日以上の縦覧期間を設けており、現に本件公開請求に関する文書につき、縦覧者の特定をせずして、一旦は誰にでも公開されているものである。したがって、本件公開請求に関する文書に記載された情報は、未だ一般の人々に知られていない事柄ではなく、本件条例七条一号の「個人に関する情報」ではなく、非公開文書にあたらない。

また、プライバシーに関する部分が仮にあったとしても、「保護に最大限の配慮をしなければならない。」というのは、正当な理由なく公にされないという趣旨であるところ、原告の本件公開請求には自己の権利の救済と全体の公正を図るという正当な目的がある。

(三) 本件条例七条一号ただし書には、「イ 法令および条例の規定により何人も閲覧できるとされている情報」「ロ 公表することを目的として実施機関が作成または取得をした情報」「ハ 法令等の規定による許可、免許、届出等の際に実施機関が作成または取得した情報であって、公益上公開することが必要と認められるもの」が記載されている公文書は、本件条例七条一号本文に該当する場合であっても、公開することと規定されている。

本件公開請求に関する文書に記載されている情報は、仮に「個人に関する情報」であるとしても、土地改良法により縦覧制度が規定されていることからすれば、「イ 法令および条例の規定により何人も閲覧できるとされている情報」または「ロ 公表することを目的として実施機関が作成または取得をした情報」に該当するというべきである。

この点、同目録二記載の公文書一部公開決定によれば、「個人に関する情報は原則として公開されないという条例七条一号本文の趣旨に反してまで公開する公益上の必要性はないと考えられるので、ただし書ロおよびハには該当しない。」としている。しかし、本件条例七条一号本文には「原則」として公開しないとは文理上規定されておらず、被告は条文の解釈を誤るものである。

また、被告は、「本件公文書は縦覧に供されているが、それは利害関係人に対し異議の申出の機会を与える手続の一環として、一定期間縦覧に供しているだけで、その期間が過ぎれば、いつでも本件文書を申出によって閲覧または縦覧できる趣旨ではないので、ただし書イには該当しない。」としている。しかし、縦覧期間経過により縦覧できないことがただし書イには該当しないと即断することは、理論の飛躍があり違法である。なぜならば、縦覧期間を定めて区切りをつけているのは、異議申出を打ち切って、可及的速やかに法律関係の安定を図る必要があるために期間を限定しているだけで、縦覧期間後は一切の情報公開をさせないという趣旨ではないからである。本件条例一六条は他の制度との調整関係を定めているが、この規定の反対解釈からも、縦覧期間経過後は本件条例の適用により情報公開請求できる。すなわち、「福井県公文書公開事務の手引」(以下「手引」という。)の本件条例一六条についての解説によれば、「(2) 他の法令等に閲覧等の手続が定められている場合であっても、次に掲げる場合等当該法令等に定める閲覧等の要件を満たさないことにより閲覧等ができないときは、本条例を適用する。」とし、「イ 閲覧等を請求できる期間が限定されている場合において、当該期間外に閲覧等の請求があったとき」とされており、本件公開請求はまさにこれに該当するものである。

そもそも、本件公開請求に関する情報は、いずれも土地改良事業に関係する地権者にとって重大な関心事であるばかりでなく、同時に一般市民の税金によって賄われる行政庁施行の土地改良事業が適正、公正に行われているか否かを監視する上で。一般市民全体にも重大事である。それゆえ、縦覧期間を知りえない県民にとっても重大事であり、本件条例により知り得べき情報である。特に、非公開とされた各筆換地等明細書および各筆換地明細書集計集は一般市民にとって知り得べき情報である。以上により、一般市民にとっても公開の必要性、有益性が高く、この点からも非公開事由に該当しないというべきである。

また、手引の本件条例七条一号についての解説によれば、本件条例七条一号ただし書イについては、「イ 『何人』でも閲覧できる情報に限るものであり、閲覧を利害関係人等のみに認めているものは含まない。」となっているが、土地改良法上、縦覧は利害関係人等のみに限定されておらず「何人」でも縦覧できるのであるから、右イには該当せず、「ウ 法令等に何人でもと規定されていても、請求の目的が当該法令等の規定または運用により制限され、実質的に何人にも閲覧を認めるものでないものは含まない。」となっているが、土地改良法上、縦覧請求の目的は制限されていないから、右ウにも該当しないから、本件公開請求に関する文書は本件条例七条一号ただし書イに該当するというべきである。また、手引は、本件条例七条一号ただし書ハについても「個人に関する情報であっても、法令等の規定による許可、免許、届出等に際して実施機関が作成または取得をした情報であって、その性質上、県民生活に少なからぬ影響を及ぼすものがある。したがって、これらの情報のうち、個人の生命、身体および財産の保護その他公共の安全を確保する必要がある場合には、当該情報が記録されている公文書を公開するものである。」としており、本件では、土地改良法の規定による認可の申請の際に福井県が取得した情報であって、当該公文書の閲覧によって異議申立てをし、換地全体の公正と原告個人の権利救済を図り、財産の保護を確保しようとしているのであるから、本件条例七条一号ただし書ハにも該当するというべきである。

2  被告の主張

(一) 本件条例に基づく情報公開請求権は、憲法二一条が定める表現の自由の一側面としての「知る権利」に基礎を置くものであることに異議はないが、「知る権利」は未だ抽象的権利に過ぎず、具体的権利としては本件条例の制定により初めて創設されたものと解すべきである。したがって、公開除外規定の解釈に当たっても本件条例の文言に忠実に従った解釈をすべきであり、規定の文理を超えてまで限定的に解釈すべき理由はない。

(二) 本件条例三条前段は、公文書公開制度における「公開の原則」の基本理念を定めたものであるが、後段においては公開が原則であっても個人のプライバシーを侵害してはならないとする実施機関の責務を定めている。

本件条例七条一号は、三条後段を具体化したものである。各都道府県の公文書公開条例において、個人のプライバシー保護の規定の仕方として、個人に関する情報を一律原則として非公開とする方法と、個人に関する情報のうち、通常他人に知られたくない情報のみを非公開とする方法の二つに大別されるが、本件条例は前者の考え方を採用し、個人に関する情報は本件条例七条一号ただし書イ、ロ、ハの例外を除き原則非公開と定めたものである。したがって、原告が引用する別紙処分目録二記載の公文書一部公開決定の理由には何の矛盾も誤りもない。

本件条例七条一号に定める個人に関する情報の要件として「特定の個人が識別され、または識別され得るもの」以外の要件、例えば原告の主張する如き「未だ一般の人に知られていない事柄」を加えることは許されない。のみならず、土地改良法五二条の二で準用する同法八条六項の縦覧規定は、縦覧者を特定していないとはいえ、事柄の性質上実際には当該土地改良事業の施行地区内における関係権利者に限られるのが通常であって、縦覧に供せられたからといって、未だ一般の人に知られていない事柄でなくなったとは言えない。

そして、原告が公開を求める公文書は、土地改良事業における地権者の氏名等が記載されていることから、特定の個人が識別されるものであることには疑いがなく、前記の「特定の個人が識別され、または識別され得るもの」という要件に該当することは明白である。

(三) 原告は、本件公開請求に関する文書が仮に本件条例七条一号本文の「個人に関する情報」であるとしても、同号には「原則」として公開しないとは文理上規定されておらず、条文解釈に誤りがあると主張するが、この規定の趣旨は前記(二)のとおりである。

また、原告は、本件条例一六条の反対解釈により、縦覧期間経過後は公開請求できる旨主張するが、同条の趣旨は他の法令の規定により閲覧できる場合は、当該法令の規定によることを定めたものであり、縦覧期間経過後は請求権は認められるが、公開されるかどうかは本件条例七条の規定によるものであり、解釈に何ら違法はない。

本件公開請求に関する文書が、本件条例七条一号のただし書イまたはロに該当しないことについては、別紙二記載の理由のほか、次の理由を付け加える。すなわち、本件条例七条一号ただし書イの規定は、法令等により何人でも縦覧できる情報が公文書の一部であるときは、その部分については何人でも容易に入手できる個人情報であるから、公開を定めたものである。しかし、土地改良法による縦覧は関係者に異議申立ての機会を与える目的で期間を定めて書類等を見せるものであり、一般に縦覧期間経過後はこの情報を入手できないのであるから、イの「閲覧」には該当しない。また、ただし書ロの「取得した情報」とは該当個人から直接取得した情報であり、第三者から取得した情報の場合は、当該個人が公表されることを了承し、または公表されることを前提として提供された情報であることが必要である。

第三  争点に対する判断

一  本件条例に基づく公文書公開請求権について

本件条例は、一条において、「この条例は、地方自治の本旨に即した県政を推進する上において県の保有する情報の公開が重要であることにかんがみ、その一環としての公文書の公開に係る県民の権利の内容を明らかにするとともに、公文書の公開の手続その他必要な事項を定めることにより、県民の県政参加の一層の推進および県政のより公正な運営の確保を図ることを目的とする。」ことを明らかにし、三条において、「実施機関は、公文書の公開を請求する権利が十分保障されるように、この条例を解釈し、運用しなければならない。この場合において、個人の秘密、私生活等に関する情報については、その保護に最大限の配慮をしなければならない。」ことを明らかにしており、また、甲七によれば、三条前段は、公文書公開制度における公開の原則を示し、実施機関には、公文書に記録されている情報が七条各号に掲げる適用除外事項に該当するか否かの判断に当たっては、公開が原則であるという基本理念に立って、厳格かつ適正に解釈、運用することが要請されていることが認められる。

右に鑑みれば、本件条例は、「知る権利」という文言を使用していないものの、その重要性を認識し、県民の県政への参加を実質的に確保するために右権利を保障しようとの理念に基づき、それを実現することを目的として制定されたものと解される。

ところで、行政機関等の保有する情報の公開を求める権利としての知る権利(情報公開請求権)の性質については、それが憲法二一条一項によって保障される権利であるとしても、個々の国民が裁判上情報公開を請求しうるためには、公開の基準、要件、手続等について法令等による具体的な定めが必要であり、右条項を直接の根拠として裁判上情報公開を請求しうるとすることは困難である。その意味で、右条項の保障する情報公開請求権としての知る権利は、それ自体としては抽象的な請求権にとどまるものと解さざるを得ないというべきである。そして、本件条例による公文書公開請求権は、福井県が右の抽象的請求権を個人のプライバシー等の保護を図りつつ、その属する行政機関の公正な運営の確保との調和を考慮しながら、本件条例を制定することによって県民の権利として具体化したものであって、本件条例により初めて具体的請求権としての根拠が与えられたものと解すべきである。

したがって、情報公開請求権としての知る権利が憲法上の権利であるとしても、本件における具体的な公文書公開請求権の有無を判断するに当たっては、本件条例の制定された趣旨、目的等を踏まえながら、本件条例の条文に従って解釈する必要があるというべきであって、本件条例は、三条において、公文書は原則公開としながらも、個人のプライバシーに関して最大限の配慮を求め、七条各号において、個人のプライバシー保護等との関係から例外的に公開しないものとする公文書を列記しているのであるから、それらの適用除外事項に該当するか否かの判断は、個人のプライバシー等の保護に最大限の配慮を払いつつ、本件条例の条文の趣旨に即して解釈されなければならない。

二  本件条例七条一号本文該当性について

甲五によれば、本件処分によって非公開とされた公文書は、織田町営土地改良事業織田中部地区換地計画書のうち、(1)各筆換地等明細書の①従前の土地に係る評定(等位、価額)及び換地交付基準額、②換地に係る評定(等位、価額)及び清算金(徴収、交付)、③「権利の表示」欄の不動産登記法上の登記事項以外の事項、④「記事」欄の供託金の額及び使用貸借に係る事項、及び(2)各筆換地明細書集計表の①従前地に係る価額、配分額、換地交付基準額」、②換地に係る価額、③清算金(徴収、交付、附記)の各事項が記載された部分であることが認められる(以下「本件公文書」という。)。

ところで、本件条例七条一号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、または識別され、または識別され得る」情報が記載された公文書については公開しないものとする旨規定している。そして、甲七によれば、本号本文は、個人のプライバシーを最大限に保護するため、特定の個人が識別され、または識別され得る情報が記録されている公文書は公開しないことを定めたものであり、プライバシーの具体的内容や保護されるべき範囲については、プライバシーが個人の内心にかかわる問題であり、人によって考え方も異なるところから、一律的な結論を出すことは困難であるので、原則として、思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、住所、財産の状況、所得その他一切の個人に関する情報は、プライバシーに該当するか否かの判断を行わずに公開しないこととしたことが認められる。

そこで検討するに、本件公文書は、織田町営土地改良事業織田中部地区の換地計画に関する土地の評価や権利関係等、個人の財産の状況に関する情報を記載したもので、すでに土地所有者の住所、氏名等が公開されていて特定の個人が識別されることは明らかであるから、右情報は本号本文に該当するというべきである。

なお、原告は、本件条例三条の「個人の秘密」という規定からして、本件条例七条一号本文の「個人に関する情報」は、未だ一般の人々に知られていない事柄であることが必要であるとし、本件公文書は、土地改良法に従って縦覧に供され、何人に対しても一旦は公開されたものであるから、未だ一般の人々に知られていない事柄とはいえず、したがって「個人に関する情報」には該当しない旨主張する。しかしながら、前記認定によれば、本号本文は、個人のプライバシーを最大限に保護するため、個人に関する情報は、プライバシーに該当するか否かの判断を行わずに公開しないこととし、本号ただし書イ、ロ、ハにおいて、「個人に関する情報」であっても、公開することによって個人のプライバシーを侵害することがないものや公益上公開することが要請されるものについては非公開の対象から除外するものとしていることが認められ、また、本件条例三条は実施機関の責務についての一般的規定であり、具体的な効果を導き出すことはできないから、本号本文にいう「個人に関する情報」には原告の主張するような「未だ一般の人々に知られていない事柄」という要件を付加することは許されないというべきである。

三  本件条例七条一号ただし書該当性について

1  本件条例七条一号ただし書イは、「法令及び条例(以下「法令等」という。)の規定により何人も閲覧できるとされている情報」は個人に関する情報であっても公開の対象になる旨規定しているが、これは、個人に関する情報であっても、何人でも容易に入手しうるものについては、公開することとしても、それによってプライバシーの侵害という問題が生じないことから公開するものとされたと解される。そこで検討するに、本件公文書は、土地改良法に従って縦覧に供され、一旦は公開されたものであるが、本件公開請求の時点においては縦覧期間が経過し(当事者間に争いがない。)、何人でも閲覧できるというものではなく、その情報を容易に入手しうるということはできない上、その縦覧手続における縦覧の方法、期間等を考慮すれば、本件公文書に記載された個人に関する情報は、縦覧によって広く一般の人々に知られているとも言えないから、右時点においては、公開によるプライバシーの侵害という問題が発生しうる状況となっているのであって、ただし書イの予定する場合を超えるものと考えられるから、ただし書イには該当しないというべきである。

なお、原告は、他の制度との調整関係を定めている本件条例一六条の反対解釈からも、縦覧期間経過後は本件条例の適用により本件公文書は公開されるべきであると主張する。しかし、甲七によれば、同条は、他の法令等の規定により閲覧等が可能な公文書等については、専ら当該法令等に定める手続によることを明らかにしたもので、他の法令等に閲覧等の手続が定められている場合であっても、当該法令等に定める閲覧等の要件を満たさないことにより閲覧できないときに初めて本件条例を適用することを規定したものである。これによれば、本件の場合における同条の適用範囲は、原告が本件条例によって本件公文書を公開請求しても不適法とはされないというにとどまるものであり、さらに当該公開請求が認められか否かまでは同条の規定するところではなく、それはまさに本件条例七条の解釈問題であるというべきであるから、原告の右主張は採用することができない。

2  本件条例七条一号ただし書ロは、「公表することを目的として実施機関が作成または取得をした情報」は個人に関する情報であっても公開の対象になる旨規定しているが、これは、右情報が実施機関によって作成または取得される段階において公表することを目的としていることから、そこにおいてすでに個人のプライバシー保護についての配慮がなされており、右情報を本件条例により公開することにしても新たにプライバシー侵害の問題が生じないからであると解される。そこで検討するに、本件公文書は、織田町長が被告に対し、土地改良法の規定により、換地計画の認可を受けるために提出したものであって、被告が公表することを目的として取得をした情報ということはできないと解すべきである。たしかに本件公文書は、土地改良法に従い縦覧に供され公開されてはいるが、それは換地計画の利害関係人に異議申出の機会を与え、その権利を保護するという観点から土地改良法が要請しているものであって、その限度で個人のプライバシー保護の要請が後退させられているものと考えられ、ただし書ロが予定するような個人のプライバシー保護について配慮が事前になされ、本件条例により公開することにしても新たなプライバシー侵害の問題が生じない場合には該当しないものというべきであるから、縦覧に供されていることをもって「公表することを目的として」取得されたものということはできないというべきである。

3  本件条例七条一号ただし書ハは、「法令等の規定による許可、免許、届出等の際に実施機関が作成または取得した情報であって、公益上公開することが必要と認められるもの」については、個人に関する情報であっても公開の対象になる旨規定しているが、これは、個人に関する情報であっても、法令等の規定による許可、免許、届出等の際に実施機関が作成または取得した情報であって、県民生活に少なからぬ影響を与えるものがあることから、これらの情報のうち、個人の生命、身体及び財産の保護その他公共の安全を確保する必要がある場合には、当該情報が記録されている公文書を公開するというものと解される。本件公文書に記載された情報は、被告が織田町長に対し、換地計画の認可を与える際に取得した情報であるから、まさに法令等の規定による許可、免許、届出等の際に実施機関が取得をした情報に該当するものと認められる。

原告は、本件公文書の閲覧によって異議申立てをし、換地全体の公正と原告個人の権利救済を図り、財産の保護を確保しようとしているのであるから、本件公開請求は「公益上公開することが必要と認められるもの」に該当する旨主張するが、本件処分において非公開とされた部分を公開することが県民生活に少なからぬ影響を与えるものであって、個人の生命、身体及び財産の保護その他公共の安全を確保する必要がある場合に該当しないことは明らかであるから、右原告の主張を採用することはできない。

四  したがって、被告の本件処分には違法がなく、原告の請求は理由がないというべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 宮武康 裁判官 井上一成)

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